2013年度JWEF奨励賞授賞式および記念シンポジウム 報告 #JWEF

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運営委員 永合 由美子

概要

日時

2013年10月6日(日) 13:30〜16:40

場所

東京大学本郷キャンパス 工学部11号館 講堂

JWEF奨励賞受賞者および受賞記念講演者

上新原 十和さん
サントリービジネスエキスパート株式会社 品質保証本部 安全性科学センター 課長
受賞記念講演タイトル:「“測って”社会を見るしごと」

記念シンポジウム

「食の安全 〜消費者との接点から見た技術開発のポイント〜」

パネリスト:
上新原 十和氏 サントリービジネスエキスパート株式会社 品質保証本部 安全性科学センター 課長
戸部 依子氏 日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会 消費生活研究所所長
高橋 美奈子氏 ボーソー油脂株式会社 営業本部 食品部 課長

モデレーター:
町田 芽久美氏 日本化薬株式会社 医薬開発本部 開発管理部 臨床試験管理グループ長

司会:
永合 由美子(JWEF運営委員)

参加者:
法人会員4名、個人会員16名(3名)、一般25名、合計45名。():学生うち数

秋の落ち着きを感じさせる東京大学キャンパスで、2013年10月6日、2013年度JWEF奨励賞授賞式および記念シンポジウムを開催し、奨励賞授賞式、パネルディスカッション、懇親会と、3時間半の充実した時間を過ごしました。

2013年度JWEF奨励賞受賞者は、サントリービジネスエキスパート株式会社で今年から管理職としても活躍されている上新原十和さんです。まず、渡辺美代子運営委員長よりJWEF活動についての簡単な説明の後、JWEF奨励賞の選考方法と今年度の受賞について報告がありました。

選考方法の説明では、仕事の業績に加えて、ご本人の活動が周囲の女性技術者に対する評価や意識変革を起こすだけの積極性があるかが評価されること、またワークライフバランスも評価対象であることがJWEF奨励賞の特色であると述べました。さらに、本年もレベルの高い応募者が多く、選考が本当に大変だったこと、来年以降も多くの女性技術者に応募してほしいと呼び掛けがありました。

本年度の上新原さんの受賞理由は、以下の3点です。

・環境に配慮した新技術課題への積極的な取組み
・成果発表による社会への貢献
・仕事と出産育児との両立による職場への貢献

本賞の創設者であり基金を拠出頂いたJWEFアドバイザリーボードである都河明子先生からは、本賞の設立時の思い、JWEFや女性の活躍に期待する思い等を添えたお祝いの言葉を頂きました。授賞式は、渡辺委員長より賞状と楯が、都河先生より副賞(10万円)の贈呈と続き、昨年の受賞者 松井彩さんからのお祝いとして、花束とメッセージが贈られました。


上新原さんを囲む渡辺委員長(左)と都河先生

本年度の受賞者、サントリービジネスエキスパート株式会社の上新原十和さんの受賞講演タイトルは、「”測って”社会を見るしごと」。所属している安全性科学センターの分析化学グループでは、昔から女性が多く、現在は全員がママ、といった紹介にまずはちょっと驚きました。女性活用をうたうサントリーならではの風土は、この日一緒に参加くださった谷口所長のメッセージ(上新原さんへの期待)にも感じられました。

上新原さんご自身の研究のあゆみについては、「仕事の基本・面白さ」「専門性の大切さ」から、メカニカルリサイクルPETボトルに関する研究を、視野を広く、業界全体での知見とするための論文化まで、常に楽しんで仕事をされている様子が印象的でした。ワークライフバランスについても一時期は子育てに重点を置くと割り切った判断をされ、「家庭運営・子育てはマネジメントそのもの」と、周囲も巻き込みながらの現状に、会場からも賛同の声がきかれました。当日は、大阪から小学生の息子さん2人とご主人も参加くださり、家族を大切にする姿にも共感しました。


上新原さんの受賞講演

続くパネルディスカッションは、私たちにも関心の深い“食の安全”がテーマ。「食の安全 〜消費者との接点から見た技術開発のポイント〜」とタイトルを掲げ、消費者&技術者の立場で語り合うことを目指して企画しました。
 公益社団法人 日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会 消費生活研究所所長 戸部 依子さん、ボーソー油脂株式会社 営業本部 食品部 課長 高橋 美奈子さんと上新原さんをパネリストに迎え、日本化薬株式会社 医薬開発本部 開発管理部 臨床試験管理グループ長 町田 芽久美(JWEF運営委員)がモデレーターを務めました。

パネルディスカッションでの論点は大きく3つでした。初めに、「容器とその中身の安全性」について、上新原さんから講演内容を補足する形で法的背景(食品衛生法)の説明、高橋さんからは食品油とその容器の観点からコメント、さらに、戸部さんからは容器に関する消費者の意識の紹介(PETボトル入りの牛乳がない理由等)がありました。容器とその中身の安全性には、消費者の行動意識が深く関わっていることがわかりました。


パネラー3名とモデレーター
(左から町田、上新原さん、戸部さん、高橋さん)

次に、タイトルである「食の安全性」について、戸部さんから食品中の規制値を定める基準の解説があり、単に基準値のみを議論するのでなく文化的背景も踏まえて総合的に実態を考える必要があるのだと理解しました。一方、上新原さんからは、無毒性量のわからない物質のリスクを判断する基準の紹介があり、その後の高橋さんを交えた議論から、「添加物ゼロ」は科学ベースで考えるとおかしいと技術者である私達(消費者)が気づかなければいけないとの話題が出ました。

最後に、「消費者との接点から見た技術開発のポイント」では、高橋さんから、安心・安全は当たり前で美味しさが求められる食品業界において、私達は消費者であり女性技術者であるという立場でコミュニケーション能力を生かすことができるとの発言がありました。その後の上新原さん、戸部さんとの議論を通じて、技術の進歩で「見える化」が進んでいること、技術者と消費者とのコミュニケーションが重要であること、消費者であり女性技術者である強みを生かして見せ方や伝え方を工夫して、消費者が自分で判断できるようになることが大切であるとのメッセージを受け取りました。


パネルディスカッションの様子

その後の懇親会にも30名ほどが参加、山梨から来てくださった一般参加の若手技術者も含めて、ネットワーキングに場は盛り上がりました。

懇親会でも紹介したメンター部会による「メンタリングサロン&会員全員を対象とした忘年会」を12月1日に開催します。現在の参加者は20名強、まだ参加者募集中です。どうぞお気軽にご参加ください。

次に、JWEF会員から寄せられた今回の授賞式・シンポジウムの感想を紹介します。

感想

2013年度JWEF奨励賞授賞式および記念シンポジウム「食の安全 〜消費者との接点から見た技術開発のポイント〜」に参加して

JWEF個人会員 松井 彩

 10月6日、今年のJWEF奨励賞授賞式が昨年と同じ会場で行われるということで出席した。昨年は、ただただ緊張しながら会場に向かったのを思い出していた。会場では運営委員の方々が昨年同様忙しそうに、そして楽しそうに準備をされていた。手作り感のある受賞式にとても親近感がわく。

一年あっという間だった気もするし、長いような気もした。昨年連れてきた娘は3歳になり、すっかりお姉さんになった。ごろごろと転がっているだけだった息子は1歳になり、今は走り回っている。子供の成長を考えると 1年の長さを実感した。昨年奨励賞を頂いた数ヵ月後、育児休暇を終え、フルタイムで復帰した。今は新しい仕事にも慣れつつある。


松井さんから上新原さんへの花束贈呈

受賞者の上新原さんの講演は客観的に自分のキャリアを振り返りつつ、それぞれのフェーズごとでメッセージを提示され、惹きこまれる内容だった。

長いキャリアの中では迷いもあり、チャレンジもあり・・といったことを 素直に講演で披露されていた。仕事においては全力で疾走するだけが キャリアの有り方ではなく、時には助走したり、立ち止まったりも必要である そうやってバランスを取りながら進めばいい。仕事を続けるにあたり、自分の周りへの配慮を欠かさない点なども参考にしたいと思う内容だった。上新原さんの講演は子育てにおいての先輩からのメッセージと私は受け止めた。

パネルディスカッションでは、身近な”食”についての安全性を、異なる視点で議論されていた。やはり消費者視点で、かつ小さい子供を持つ母親視点でとても興味深いものだった。内容はもちろんだが、パネラーの皆さんのそれぞれの仕事に対する熱意や想いが垣間見られたことが こういったイベントに出席したことの特権だと感じた。

渡辺委員長が受賞式の最初に ”それぞれの年代ごとに異なる役割がある”といった内容を話された。自分もずっと頑張れる領域がある・・そうと思うと嬉しくなった。

授賞式というイベントだが、様々な職業に就いている女性のエネルギーが感じられ、パワーをもらった1日となった。

2013年度JWEF奨励賞授賞式および記念シンポジウム「食の安全 〜消費者との接点から見た技術開発のポイント〜」に参加して -これからの自分の仕事、生活へのヒントを得る-

JWEF個人会員(学生) 川久保佐記

JWEFのイベントでは毎回新鮮な学びがあると同時に、自身が抱える悩みについてのヒントを得ています。今回の2013年JWEF奨励賞授賞式、および記念シンポジウムでは、子育てと仕事の渡り歩き方や、技術者とマーケット、消費者との接点について考える機会となりました。

今回の奨励賞を受賞された上新原さんのお話を聞くまでは、子育てをしながら仕事を続けることに対して非常に難しく考えていましたが、「両方完璧に」「両立」という大風呂敷を広げるのではなく、肩の力を抜いて取り組む自身の気持ちの持ち方、周囲への働きかけ等、これからのキャリアプランに大いに参考になるお話を伺うことができました。

引き続き開催されたシンポジウムでは、私の頭からすっぽり抜けていた研究開発における「消費者」という観点の重要さに気づく事ができました。研究開発の恩恵を受けるのは私たち消費者であり、上新原さんや高橋さんのお話にもあったように、開発者には消費者の行動、考えに配慮して技術開発を行う責任がありますが、安全の追求は開発者だけの責任ではないということも感じました。消費者の生活に密接に関連する業界においては、消費生活アドバイザーのように、開発者と消費者の情報格差を埋める役割が重要であると再認識しました。

また、女性技術者という視点に立つと、消費者と密接に関わる業界での技術開発は女性技術者にとって得意分野なのではないかとも思います。私の主観になりますが、家族の健康、家庭の安全を常に意識し、アンテナを張り巡らせているのは女性の方が多いように思います。消費者がどういった点を気にするのか、どのような行動を取る傾向にあるのか等、実体験に基づいた技術開発ができるのではと思います。女性技術者によって、生活関連分野での情報格差の是正や技術開発における新たな視点の開拓が、今後ますます加速されるのではないかと心強く感じるとともに、自分自身も励まされたような気がします。

最後に開催された懇親会では、仕事でも人生でも経験を重ねて来た方々のアドバイスを頂く事ができ、「このような生き方をしたい」というようなロールモデルが見えてきた気がしています。

私は女性技術者の仕事での活躍、プライベートでの奮闘にはいつも励まされ、今回の参加はまたこれから前向きに頑張ろうという気持ちを持つ機会となりました。

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